BIM実践講座

準備編「BIMとVectorworks」

3. プロジェクトファイルの構成

従来までの2次元CADによる設計では、プロジェクトは数多くの図面から構成されており、その図面群は多くの場合別々のファイルとなっていました。

BIMでは、コンピュータ内に仮想の建築物を構築する手法であるため、基本的にプロジェクトファイルはひとつに集約されており、そこから図面や集計表を取り出します。

BIMのプロジェクトファイル

もちろん、意匠・構造・設備などの専門別データや、ユニット等を部分的に分けてモデルを構成する事はありますが、それらはひとつのプロジェクトを構成する要素として重複することなく、最終的に統合されます。

プロジェクトモデルを構築するためには、レイヤやクラスについて一定の規則を持って使用する必要があります。レイヤとクラスの使い分けをしっかりおこない、プロジェクトファイルを管理することが、BIMによるモデルをスムーズに構築する秘訣と言えます。

Vectorworksにはファイルを構成する概念として、モデルを構築する基準となる[デザインレイヤ]とオブジェクトのカテゴリ・仕様を設定する為の[クラス]があります。さらに、作成されたモデルを図面として切り取るための[ビューポート]と切り取った[ビューポート]をレイアウトする[シートレイヤ]が用意されています。

[デザインレイヤ]は他のCAD同様に階層化された概念であり、多くの場合製図用紙に例えられて語られます。しかし、Vectorworksにおける[デザインレイヤ]は縮尺やカラーなどの設定の他に高さを設定することができ、階ごとのレベルを設定してモデリングの基準とすることができます。

[クラス]はモデル内に配置されるオブジェクトのカテゴリ分けの他、線種や面のカラーレンダリング時のテクスチャなど様々な仕様設定をおこないます。

[オブジェクト]の仕様を[クラス]により設定し、構成された[デザインレイヤ]内の[モデル]を[ビューポート]として取り出し、[シートレイヤ]にレイアウトします。[ビューポート]では[デザインレイヤ]とは別に注釈や寸法線を作図することができるので、[デザインレイヤ]ではモデルの構築に専念することができます。

BIM実践講座

ビム・アーキテクツに聞く

竹口:
実際にBIMを用いて実務を行なっている側と、外側からBIMを見ている人とでは大きな乖離があるように感じますが、昨今流布しているフルマラソン的なBIMイメージに対してどう思われますか。

BIMで生産性は大きく向上する

永井:
BIMを説明する際によく「[download:file_4de5ff1667de6 フロントローディング]」という単語が用いられますが、設計から施工・維持管理までの大きなスパンでフロントローディングというと、設計側に非常に大きな負担が行くように感じられます。

これは、設計者や設計事務所がBIMを導入することに二の足を踏ませる一因となっていますが、実は各フェーズごとに「フロントローディング」の概念は適用されます。

設計業務においても、BIMで業務を行うことで、図面や集計・プレゼンテーションなどを同時に進めることができ、生産性は大きく向上するはずです。

山際:
BIM=ツールだと思っている人がまだ多いと思いますが、BIMは概念です。
この概念を基に、”どこまで、何ができるか”ではなく、”自分の業務の範囲で、何をしたいか”と考えることが重要です。
短距離走のBIMもちゃんとあります。

オフィスサンプル オフィスサンプル オフィスサンプル

竹口:
短距離走のBIMというのは、設計事務所や個人設計事務所のBIMということですね。

山際:
そうです。
ただ、ゼネコンが求めるBIMと、設計事務所が求めるBIMは異なります。
ゼネコンは建物を建てることが目的であり、設計事務所は設計することが目的なので、求めるものが違うのは理解できることです。

それと、非常に重要なことですが、”BIMはやりすぎることが失敗の原因”です。
慣れてくればデータを入力することは簡単ですが、それが実際に使えるかは別の話です。

「BIMで施工図も出来ますか?」と聞かれることが多いですが、設計者がそこまで書き込む必要は無いと考えます。

竹口:
BIMだから出来た、または出来る建築ってありますか。

設計のバランスが良くなった

山際:
オーガニックデザイン等のフリーフォーム形状は比較的やり易いです。複雑なデザインでも面積や情報と連動するので、BIM向きかと思います。

建築を設計するプロセスでは、情報の共有の仕方が大きく変わりました。
従来だと図面中心に物事を進めるので、情報の引き継ぎが何かと面倒でしたが、モデル中心で情報を共有すると、スムーズな情報のバトンタッチが可能になります。
今まで以上に広い範囲の人達と情報共有することが出来ます。

永井:
BIMでないと出来ない建築というのは無いと思います。
ただし、従来の方法と比べて、設計のバランスが格段に良くなりました。

竹口:
設計のバランスとは?

設計者としてやれることが多くなった

永井:
例えば、デザインとシミュレーションのバランスです。以前なら、限られた時間の中でどちらかにウェイトを置かざるを得なかったのですが、BIMで設計した場合は、納得いくバランス配分が可能です。
極端な言い方をすれば、常にシミュレーションを行いながら設計を行うことができるので、手戻りが非常に少なくなりました。

山際:
以前なら、30,000㎡の計画を3日で一人でやれといわれたら不可能でしたが、BIMであれば可能であり、実際に38,000㎡に住宅と商業施設を入れる計画を行った経験があります。
面積表を含む概要書と一般図と外観パースぐらいまで、徹夜することなく作成することができました。感覚的には、従来の30%ぐらいの労力でできます。ただし設計者は時間があるだけがんばってしまいますけどね(笑)

プロポーザルプロポーザル
プロポーザル

竹口:
お二人とも古くからVectorworksを使って頂いているパワーユーザーですが、現行のVectorworksについての感想をお聞かせ下さい。

山際:
図形の切り貼りや、面で物事を考える概念は非常にデザイナーの感性にマッチしており、使いやすいです。
頭に思い描いたものがすぐに形状となるのが良い所です。近い将来、BIMでも是非それを実現してほしいです。

永井:
以前の職場ではVectorworksでマンションなどの設計を多くこなしていましたが、ほとんどが2Dのみの利用でした。
3Dの機能は知ってはいましたが、あまり使っていませんでした。
今回Vectorworks Architect 2011を使ってみて、3D機能の充実に驚きました。新たな発見が沢山あります。
ただ、ツールが増えすぎた感も否めないので、是非BIM専用パレットなどを近い将来搭載してほしいです。

竹口:
本日はどうもありがとうございました。
また、長丁場ですがBIM実践講座の方もよろしくお願いします。

iPad2

P.S
山際さんはアップルファンだそうで、業務はMacで行なっているそうです。
この日も書類や作品が入った iPad2 を持参し、インタビュー中に、関連のある情報や画像を表示させて見せて頂きました。
ポートフォーリオといえば、A2やA3に出力し、同サイズのクリアーファイルを持ち歩くイメージ(古い!!)でしたが、最近のデザイナーはスマートですね。