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コラム「バケツツールに想いをよせて」

1984年は、Apple社(当時Apple Computer社)のMacintosh発表によってコンピューターが電算室から飛び出し、デスクに置かれるパーソナルなものになった歴史的な年でした。
初代Macintoshに標準搭載されていたアプリケーションの中に「MacPaint」があります。

MacPaintはグラフィック系ソフトで、QuickDrawという描画APIをベースに開発されていました。MacPaint、QuickDrawを開発したのが元Appleフェローのビル・アトキンソン氏です。

ドロー系の標準搭載ソフト「MacDraw」だけでなく、MiniCADを含む多くのサードパーティアプリケーションがQuickDrawを利用していたので、このAPIがなければMiniCADの誕生、そして今のVectorworksはなかったと言えます。

Computer History Museumより転載
Early MacPaint drawing by Susan KareCredit: Apple, Inc.

MacPaintやMacDrawはGUIベースのソフトのあるべき姿として参考にされています。そんなMacPaintにはバケツツールがありました。
バケツツールで画面内をクリックすると、閉じた領域を指定した模様で塗りつぶすという、まさに現実世界の動作をモニターの中に取り込んだツールでした。

Macを使い始めた当初、MacPaint(すでに後継のClarisWorksに統合)を立ち上げては、適当に模様を描き、バケツツールで塗りつぶして遊んでいた思い出があります。ただそれだけなのに妙に楽しく、何かができる気がしていました。

開発者のビル・アトキンソン氏は6月5日にこの世を去ってしまいましたが、彼の創出した世界はVectorworksの中に今も息づいています。
そう、Vectorworksで見かけるバケツモード(現在のVectorworksでは「境界の内側モード」)のルーツです。

Vectorworksでは、多角形ツールやスラブツール、スペースツールのモードの1つとして残っています。
動作はMacPaintと同じく囲まれた領域にそれぞれのオブジェクトを作成するもので、カーソルアイコンを含めた直感的なインターフェイスは、VectorworksがMac生まれのソフトだと印象づけます。

作成されるオブジェクトは時代とともに情報リッチになってきましたが、操作上の意味はまったく変わっていません。
そしてユーザーの作業効率を向上させるものとして機能しています。

バケツツール以外にも、MacPaintには今でもよく目にするアイコンが搭載されていることは、驚きと称賛に値します。

MacPaintはだいぶ前に開発が終了し、QuickDrawはすでに使われなくなったテクノロジーですが、パーソナルコンピューターの歴史に果たした役割は大きく、40年を過ぎてもなおその礎の上に発展しています。

ビル・アトキンソン氏の訃報に接し、先人の足跡とその上に新しいものを創ることの重要性を改めて思いました。
これからもVectorworksは歴史の上に築かれ、ユーザーを未来に駆り立てる存在でありたいと思います。

なおQuickDrawとMacPaintのソースコードは、米国コンピューター歴史博物館にて公開されています。